二人の関係 その1


 大学時代の友達の話。
 彼には、同じ高校から一緒の大学に進学した女友達がいました。
 私が初めて紹介を受けたときは、てっきり彼の彼女だとばかり思っていたのですが、そういうわけでもなく、単なる腐れ縁という事で、お互いに笑いながら否定していました。(何度もそういうことを聞かれていて、既に慣れていたようです)
 とは言っても、傍目から見ると二人は大変に仲がよく、人付き合いの希薄さをなんとも思わなかった当時の私も、ちょっとばかりそういう関係を羨ましいなぁと思ったもので、どうせ、在学中になんらかの進展があるのだろうと予想していました。
 しかしその辺り、人を見る目が無い私。
 私の予想に反して、彼はその夏、彼女とは別の女の子と付き合い始めました。
 
 同じ講義を受けている最中に、隣に座ったその女の子から、手紙を渡されたのだそうです。
 最初は丁重に申し出をお断りした彼だったのですが、それでも女の子はあきらめきれず、簡単な挨拶から、一緒に受ける講義ではしっかりと隣の席を確保したりと、持久戦に持ち込んだのでした。
 その結果なのか、単にその光景に慣れてしまっただけなのかも知れませんが、夏になる頃には、彼の隣にその女の子がいるのが当たり前の風景になっていました。
 そこで気になるのは、仲のよかった彼女のこと。そんな女の子が彼に近づいて行けば行くほど、彼女の立ち位置は微妙になるのでは……と私は心配していたのですが、全くの見当違いだったようでした。
 彼女とその女の子は、彼も私も全く知らないうちに、大親友になっていたのでした。
 
 彼女からタネを明かしてもらったところ、彼の外堀から攻略していこうということで、女の子は彼女に対して早いうちから接触を試みていたようでした。
 他の人達と同じく、その女の子も彼と彼女のことを誤解していたらしいのですが、誤解が解けてからは、彼女が積極的にその女の子の後押しをしていたようでした。
 だからなのか、彼とその女の子が付き合い始めてからも、彼と女の子と、そして彼女の三人が一緒にいる姿を何度も見かけました。
 もちろん、デートの場まで彼女がしゃしゃり出ていくことはありませんでしたし、うれしそうに彼のことを話す女の子に、茶化しながらもちゃんと耳を傾けてあげているようでした。
 一度だけ見せてもらったことがあるのですが、飾りっけのない彼女の手帳に、ただ一枚だけ貼られていたプリクラは、ちょっと困った顔をしている彼女と、そんな彼女の腕を引っ張り楽しそうな女の子の写真でした。
 
 雪の降るクリスマスイヴでした。一度だけ彼女が泣いているのを見かけてしまいました。
 その日は午前中から女の子と彼女の二人で買物へ出かけ、彼へのプレゼントを一緒に探していたそうです。
 ウィンドウに並ぶ洋服などを眺めながら、お互いに似合う似合わないというやり取りをしながら、彼女は楽しかったのだと言いました。
 彼との待ち合わせの時間が近づき、駅で二人は別れました。女の子は片手で彼へのプレゼントを抱きしめ、行って来るねと幸せそうに、もう片方の手を小さく振っていたそうです。
 彼女はそのまま駅の待合室へ向かい、そこに私がいたのにも気が付かず、椅子に座り込んで顔を臥せったのです。
 二人には言わないでと言う彼女の鞄から、渡すことが出来なかったのだろう、プレゼントの包みが少しだけ見えていました。
 
 その後も、相変わらず三人で一緒にいる姿をよく見かけました。彼女の顔には、あの日の泣いていた時の表情は微塵も見受けられませんでした。
 私は彼女に頼まれた通り、彼や女の子には何も言わずに、黙ってそんな彼らを見ていました。
 やがて私たちは大学を卒業しました。彼ら三人の状態は卒業まで変わることなく続いたようでした。
 しばらくは私も彼らと連絡を取り合っていたのですが、新しい環境に追われる毎日で、次第に連絡も途切れ途切れになっていきました。
 それから半年経ったある日、久しぶりに彼から連絡をもらい、女の子と別れた事を聞かされました。
 私は何も言いませんでした。彼らのその後は私には分かりません。


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2004.10.29 初回日記公開
2005.10.10 最終更新