第三回 お遊びショートストーリー企画「ほのぼの・晴れた公園」
題名:晴れた日は公園で
作者:伊月めい


 ジャンケンに負けた螢子は、大学の売店で買い込んだ紙袋いっぱいの昼食を抱えて、加奈の待つ公園へと小走りに向かっていた。
 木々の葉が少し赤らみ始めた季節の、まだまだ暖かな日差しが降りそそぐ昼時、螢子の通う大学の近くにある公園では、学生達が思い思いの昼の時間を過ごしていた。
 たったったっ…
 軽快なステップで階段を上り、螢子は公園に入る。
「加奈ー、パン買ってきたわよー」
 そして待ち合わせをしていたベンチを見ると、そこには待ち合わせをしていた加奈の姿の他に、彼女の恋人の俊樹も座っていて、二人は仲良さそうに話をしていた。
「あ、ありがとー」
「よっ、久しぶり」
 俊樹との話を中断して、加奈は紙袋を受け取る。俊樹は螢子に気付き、軽く手を振って挨拶をした。
「あーあ。友達には昼食の買い出しに行かせて、自分は彼氏といちゃついてるなんて、加奈って悪人よね〜」
「もぅ…そんな言い方しなくてもいいでしょー。今日は偶然会っただけなんだから」
「そうなの? あれっ? 俊樹くんって、今日は講義無かったんじゃないの?」
 そう言いながら、螢子は加奈の隣に腰掛け、紙袋から昼食のサンドイッチを一つ取り出す。
「ちょっとレポートの事で教授に呼び出しをくらってさ」
 俊樹はそういいながら、加奈の持つ紙袋の中に手を伸ばす。
「だめ。コレは私のなんだから」
 俊樹の手をぺちっと払いのけて、加奈は昼飯を守ろうとする。
「あっ、お釣り渡さなきゃね」
 ふと思い出した螢子は、サンドイッチを口にくわえると、懐から財布を取り出し、お釣りを加奈に渡した。
「ありがと」
「ううーっ。俺にも恵んでくれー」
 羨ましそうな目をして、加奈にせがむ俊樹だったが、加奈はそうねぇ…と考えるフリをして、
「じゃあ、定価の2倍で売って上げるわ」
 と吹っ掛けてみた。
「ひ…ひでぇ奴」
「何言ってるのよ、この前は夕食作って上げたし、日曜にファミレス行った時にも私が奢ったし、コレくらい安いものじゃない」
「お前は、愛する人が飢えで苦しんでいても何とも思わないのか?」
「水なら、すぐそこにトイレがあるわよ」
「せめてミネラルウォーターにしてくれ…」
 がっくりと肩を落とした俊樹と、無意味に勝ち誇ったような加奈を見つつ、螢子は、はぁ…と大きく溜め息をつく。
「あなた達って、本当に恋人どうしなの? ときどき親の仇どうしに見えるわ」
「まっ、好きの裏返しと言うわけだな。喧嘩するほど仲が良いって言うじゃん」
 喧嘩と言うよりも、一方的に俊樹の方が雑に扱われているだけなのでは…、と思ったけど、
「何言ってるのよ、そんなこと無いわよ」
 と加奈がムキになって反論するから、螢子は言うのを止めておいた。
 すると、今度は俊樹がここぞとばかりに、加奈に向かって言った。
「へぇ〜。そんなこと言っていいのか」
「なによ?」
 加奈が不審そうに尋ねると、俊樹は悪ガキの様に嬉しそうな表情を浮かべて、螢子に手招きする。
「螢子ちゃん、螢子ちゃん」
「ん? なに?」
 加奈の前に乗り出す形で、螢子は俊樹に耳を向ける。
「こんな事言ってるんだけどな、本当は加奈の方から俺にアプローチして…」
「わーっ!! わーっ!!!」
 俊樹の言葉を聞くと、加奈はいきなり大声を上げて話を遮ろうとする。
「……はいはい。ごちそうさま」
 螢子はベンチに座り直して、あらためて自分の昼飯に手をのばす。
「ほーんと、あなた達見ていると、飽きなくていいわ」
「螢子も彼氏作ればいいのに」
「そうだな。加奈と違って気だては良いし、博識で知性的だし、すぐに彼氏の一人や二人作れるんじゃねーのか?」
 ばきっ。無言で加奈のパンチが俊樹に入る。
「うーん。そんなことないと思うけど。まぁ、彼氏もいいけど、他にも色々とやることがあって時間が無いのよね」
「もったいないなぁ…。螢子って美人なのに」
「うんうん」
「変なこと言って、からかわないでよ〜」
 と、その時、3人の背後に近付く一人の女の子。そして、
「螢子先輩には、私がいるから彼氏なんて必要ないんですっ」
「きゃっ」
 突然のことで、螢子は持っていたサンドイッチを落としそうになる。
「なんだ?」
「なに?」
 俊樹と加奈がびっくりして螢子を見ると、女の子がベンチの後ろから腕を回して螢子を抱きしめていた。
「あ、理恵ちゃん」
「加奈先輩、こんにちは」
 螢子に抱きついたまま、加奈に向かって挨拶をする理恵。
「えーっと、離してくれないかな、理恵ちゃん」
 相手が理恵だと判り、困り果てた声で螢子は頼む。
「なあ、お前達の知り合いか?」
 俊樹が面白い物でも見たかのように、興味津々に加奈に尋ねる。
「今年入った子で、理恵ちゃん。学部は私達とは違うんだけど…」
 加奈が途中まで言うと、
「なんか、私が受講している講義に潜り込んでくるのよ…」
 と、螢子は付け加えた。
「あこがれの人を追いかけるのは当然ですっ」
 やたら自信たっぷりな言葉で、理恵は言う。
「なるほどな。螢子ちゃんには、ちゃんとかわいい彼女がいるのか」
「なんでそうなるのぉ!?」
 と、半泣きの螢子。
「おいおい…」
 と、突っ込みを入れる加奈。
「そうでーす。よろしくっ」
 俊樹の言葉に嬉しそうにする理恵。
「俊樹君、変なこと言わないでよぉ…」
 悲痛な声を上げる螢子だけど、理恵はそんな事はお構いなしに、くっついて離れない。
「うわぁ、背筋がぞくぞくしてきた。いい加減に離れないさいよっ」
「えーっ。そんなつれないこと言わないでくださいよぉ〜」
 すりすり…と螢子に頬ずりする理恵。
「さ、俺達は邪魔みたいだから、あっちで昼飯食べような」
 加奈の肩に手を置き、ベンチから離れようとする俊樹達に、理恵が「ごゆっくり〜」と手を振る。
「ちょっ…ちょっと俊樹っ」
「あっ、待ってよ加奈っ、一人にしないでよっ」
「ははは、冗談だ」
「えーっ、冗談じゃなくてもいいのにー」
「だから、いい加減に私から離れてよ…」

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【あとがき】
 悪意はないです(意味不明)。
 それはそれとして、これくらいのさわやかな?のくらいが一番好きですな。あまりドロドロした所まで行くのは見ていても面白くないですし。ほどよく困り果てる様子がやっぱり楽しいです。
 今回は、まるちすとさんの考えたテーマ「ほのぼの」です。
 どんどん回を重ねる毎にテーマがあやふやになって行きますが、今回は特に大きなひねりも、設定もなく、のらりくらりと流れる日常を書いてみました。
 最も、私の大学生活はこんなに騒々しくはなかったけど。これはきっと私の憧れですな。

1999/11/07 伊月めい